第77章 修行!
「次!」
「もう一回!」
「今度こそ__ッ!!」
「ねぇ、そろそろ止めておかない?もうご飯の時間だし」
「くっそ……!!」
ぜぇはぁと倒れ込むエースに対し水琴は少し申し訳なくなってきた。
バランス的には良い稽古だと思ったが、やはりまだ実力差がありすぎるだろうか。
「やっぱもう少しハンデつける?」
「ダメだ。それじゃあ意味ねェだろ」
ハンデ貰って勝ったってしょうがねェんだよ、とエースは身体を起こし水琴を見る。
「言ったろ。大人になったら仲間のとこに連れてってやるって。おれが連れてってやるんだから、お前より弱くちゃ意味ないんだ」
まさかの言い分に水琴は言葉を失う。
随分と熱心だと思っていたが、まさかそんな風に考えてくれていたなんて。
不覚にも緩んでしまう頬を抑え、水琴はエースの傍にしゃがみその顔を覗き込む。
「__つまり、エースは私のために強くなろうとしてくれてるの?」
「っちが、そうじゃなくて!
おれは、ただ連れてくのに弱くちゃカッコがつかないと思って……!」
「うんうん。そっか、ありがとう」
「お前絶対分かってねェだろ!」
もう今日は終わり、帰る!と立ち上がり行ってしまう小さな背中を目で追う。
さっさと一人離れていく背は、少し先でピタリと止まった。
「__絶対、お前より強くなってやるんだからな!」
びしりっ!と突きつけられる指にへらりと笑みを返す。
「うん。頑張ってね」
再び前を向き歩いていってしまうエースに駆け寄る。
「エースがもし私からハンカチ取れたら、ご褒美あげるよ」
「ごほうびぃ?」
「うん。なんでも一個、言うこと聞いてあげる」
「なんでもねェ……」
「ステーキでも、骨付き肉でも、なぁんでも奢ってあげるよ」
「っ言ったな!後悔すんなよ!」
「女に二言はございません」
だから頑張って強くなってね、と言えば、
あったりまえだろ!とエースが笑う。
そうして次の日も。そのまた次の日も。
今日もコルボ山のどこかで、風が吹く。