第69章 ハリネズミのジレンマ
「__思うに、だな」
このまま放っといても面倒になりそうな気配にマルコは年長者として助言を行うことにする。
八つ当たりで船を燃やされても困る。
「道中は普通だったんだろい?なら話は簡単だ。単に周りの目が気になるんだろうよ」
「周りの目ェ?」
マルコの言葉にエースは片眉を上げる。
「なんで」
「そりゃお前、家族の目に晒されてお付き合いしてるようなもんじゃねェかよ。水琴ちゃんいかにも男慣れして無さそうだし、意識しちまうんだろ」
そういうところも初々しくて可愛いけどな、とオヤジ発言をするサッチにエースは納得がいかずぶすくれる。
「んじゃあモビーに乗ってる限りお付き合いなんて無理じゃねェか」
「ま、そうなるなァ」
「もっかい逆走してくる」
「待て待て待て待て」
本気で席を立とうとするエースを年長組は無理矢理席につかす。
「だからさ、要は慣れなんだって」
からかい過ぎたとサッチは慌ててフォローに入る。
その横でうんうんとマルコもまた頷いた。
「まだこの状況に水琴も慣れねェんだろい。暫くしたら落ち着くから、今は大人しくしとけ」
「……暫くって、どんくらいだよ」
「「 さァ 」」
「やっぱちょっと旅に出てくる」
出ていこうとするエースとそれを止めに入る二人が立てる物音で騒がしいサッチの部屋を誰かがノックする。
「サッチ、朝言ってた新作ご馳走してくれるって話なんだけど今平気__」
期待に胸を膨らませている水琴がドアからひょこりと顔を出す。
そして部屋の中で暴れる三人を見、二人に羽交い締めにされているエースと目が合った。
「__ではなくなったから、お昼に、デザートでもらうねー……」
すすす、と顔が引っ込みドアが閉められる。
物凄い勢いで走り去っていく足音が虚しく響いた。
「「………」」
「なァ。本当に落ち着くのか、あれ……」
落ち込むエースに掛ける言葉が見つからない二人だった。