第66章 とある発明家の話
「……できた……」
船造りと並行して実験を続け約束の三日目。
爆発することも無く、理論上と全く同じ反応を見せる目の前の容器にリオは感動で震えていた。
「できた!なぁ、水琴!エース!
できたよ!できたんだ!やっとできたっっ」
できたできたと飛び跳ねる様子から長年の苦労が報われた喜びがありありと伝わってくる。
「船の方も何とかなったし、あとは実際に海の上でも問題ないか見るだけだな」
「せっかくだから沖に出ようよ!オレ行ってみたい!」
「お、いいなそれ」
実験成功のテンションに任せ、さっそく完成したばかりのエンジンを船に取りつける。
不備がないかチェックを済ませると、エースが船を波打ち際へ着水させた。
「……い、いくぞ」
記念すべき初めての試運転に、リオが震える腕でエンジンを稼働させる。
低い稼働音を響かせて、船は無事に動き始めた。
「わぁ、結構早いね!」
「風を気にしないでいいのは楽だな」
「だっろう?!一度に走れるのは八時間だけだけど、クーリング中は帆を使って進めばいいから実質ずっと走ってられる!」
まさにこの世界のハイブリット車ならぬハイブリット船だ。
まさかたった一人でこれだけのものを造ってしまうなんて、大人になったらどれだけのものを造るんだろう。
「お前スゲェな!うちに欲しいくらいだ」
エースも同じことを思ったのか、リオの肩を叩き勧誘する。
「いっそこのまま一緒に新世界に行かないか?親父ならきっと大歓迎だ」
「腕を買ってくれるのは嬉しいけど、やめとくよ。……海賊になるなんて言ったら、親がひっくり返るだろうし」
「ご両親がいるの?」
今まで一度もそんな話が無かったため、いないのかと思っていた水琴がそう尋ねれば失言だったのかリオの顔がしまったと歪む。
「あ、いや、いたらきっとって話で
……あぁ、そうだ。船も調子いいし、水琴達もう島を出るんだろ?最後だからぱーっと騒ごうよ!完成記念も込めてさ!」
「……そうだね、そうしよっか!」
慌てて言い繕うリオに乗り水琴はその提案を受け入れる。
あからさまにほっとするリオにそれ以上深くは聞かず、一度水琴達は岸へと戻った。