第53章 火拳のエース
「ちょっとルフィ!飛ぶならそう言って!」
「あァ、悪ィ」
不安定な屋根の上を走る。
隣のルフィは平気な顔をしているが、ここに来るまでに大分体力を使っている水琴は限界が近づいていた。
「ホワイトスネーク!」
後ろからスモーカーが放った煙の大蛇が二人に迫る。
「疾風!」
咄嗟に風で退ける。
「水琴ナイス!」
「ルフィ、先に逃げて」
私が食い止めるから、とルフィに言えば首を傾げてこっちを見返してきた。
「私なら風だから、煙には捕まらない。ルフィは逃げてみんなに知らせて」
それに足がもう棒で、これ以上ルフィのペースで走るのは辛い。
「でもよォ」
「いいから行って!」
言い放ちくるりと反転しスモーカーへ向かい腕を振るう。
「疾風!」
鋭い風がスモーカーを襲う。
しかし直前で煙となり、ダメージを与えることなく風は通り過ぎた。
別に傷つけることが目的ではないので構わない。
スモーカーが目を離したすきに屋根から下りたルフィを確認し、水琴は立ち止り息を整える。
「…いつの間に悪魔の実なんか食いやがった」
「色々あったんです、私も」
ようやく呼吸も落ち着き、久しぶりに見るスモーカーを見つめる。
「なぜ麦わらを逃がす」
「さぁ。なんででしょう」
「まぁいい。手前ェも捕まえれば済むことだ」
「簡単に出来ると思わないでくださいね」
はったりをかます。
いくら能力的には有利だからと言って、そもそも経験が違う。
つい最近まで戦場に出ることなくのんびりと過ごしていた水琴が海軍大佐に敵うわけがない。
ルフィが逃げる時間さえ稼げればそれでいい、と水琴は風を生み出す。