第51章 空に舞うは桃色の雪
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武器を持ちチョッパーを追い掛けるDr.くれはから逃げるという一悶着もあったが、何とか無事に海へ出た水琴達。
「寂しい?チョッパー」
じっと離れていく島を見つめ続けるチョッパーに声を掛ける。
「…寂しいよ。ドクターやドクトリーヌと一緒に過ごした島だ」
視線は前に向けたまま、チョッパーは答える。
「でも、ルフィ達と一緒に俺は海へ出るって決めたんだ。ドクトリーヌには、悪いことをしたと思ってるけど…」
最後引きとめられたことを引きずっているのだろう。声は段々と小さくなり、俯いてしまった。
「ドクトリーヌ、俺のこと恨んでるかな…」
「そんなわけないよ」
間髪いれずに否定する。
「でも、言ってた。お前は恩を仇で返すのかって」
「くれはさんの人柄は、チョッパーが一番よく知ってるんじゃないのかな」
言葉はきついが、その心根は優しい。
私よりもずっと長い付き合いのチョッパーは、それでも不安を消せない。
そんな二人の前。
暗い空に、明るい光が灯った。
それは破裂音を上げ、次々と空へ打ち上げられる。
「何……?」
ドラムロックの頂上をもやが覆う。
それは次第に広がり、十分な量になった頃突如光り輝いた。
ライトアップに照らされ、闇に浮き上がったのは巨大な桜。
チョッパーの目が大きく見開く。
そして、大粒の涙が溢れ、落ちた。
その様子を隣で黙ってじっと見つめる。
恨んでいるわけなんて無い。
だとしたら、目の前のあの桜はなんだというのだ。
言葉が、態度が、どんなに分かりづらく不確かであったとしても。
白一色に覆われた島に鮮やかに咲き誇る桜が彼女の、いや、”彼女たち”のたった一つの想いを明確に伝えている。
シスターの優しい笑顔を思い出す。
モビーディックのみんなを思い出す私に、本当の気持ちを教えてくれた。
泣いて謝る私を、黙って抱きしめてくれた。
もう二度と会えないと知っていても、「行ってらっしゃい」と笑って送り出してくれた。
「綺麗だな」
二人の医者の手によって完成された奇跡は、今涙を流し島を出る一人の息子をじっと見送っていた。