第2章 始まり
「グラララ…お前が異世界から来た娘か」
とても一人掛けとは思えない、巨大な椅子にゆったりと白ひげが腰かけている。
漫画の通りたくさんの点滴やチューブに繋がれ、寝たきりの病人と同様の装備を身に纏っているというのに。
その肉体を覆う筋肉と、死に向かっていてもなお冷めない強い意志を秘めた瞳が彼を”海賊最強”とたらしめていた。
その圧倒的な雰囲気を前にごくりと唾を飲み込む。
…い、いや。
怖じ気づいてはダメだ!
エースは許可をもらっていると言っていたし、お礼と挨拶をしっかりすればいいだけ…
大丈夫。挨拶は日本の心。
就職活動で身に着けた就活マナーを信じろ!
油断すれば震えそうになる身体を根性で律し、水琴は腰を折る。
「…突然の訪問お許しください。
はじめまして船長さん。私は水琴と言います。
おっしゃる通り、異世界から参りました」
「エースから話は聞いている。うちの息子が迷惑を掛けたな。帰る方法が解るまではこの船で好きに過ごしやがれ」
「ありがとうございます」
粗相がないかとひやひやしている水琴の心情が伝わったのか、顔が思ったよりひどく強張っていたのか。
白ひげはしばし水琴の顔を見つめるとふっとその表情を和らげた。
「そうかたくなるな。この船に乗るからには客人だ。何かあればエースを頼れ。いいな」
「は、はいっ!」
ありがとうございます!と再び頭を下げる私に白ひげの温かい眼差しが降り注ぐ。その視線は紛れもなく「父」のもので、クルーたちが親父と慕う理由が分かった気がした。
ほっとして後ろに控えていたエースを振り返れば「よかったな」とにっと笑い返される。
入る時とは裏腹に軽い心で失礼します、と言葉を添えて水琴はエースと共に退室した。
「さぁ、次は宴だな!」
「う、宴…?」
船長室を出て、ようやく人心地ついた私はエースの言葉に目を丸くする。
「おう、みんなに水琴のこと紹介しないとだろ」
「みんなって…何人いるんです?」
「んー、さァなァ…1600人くらい?」
告げられた数字に眩暈がした。