第105章 芸術の島
水面に光が反射しきらきらと輝く。
漂ってくる潮の香り。複数の青が溶けて混じるその世界はどこまでも広く美しかった。
見てごらん、と母が囁く。遠くで鯨が顔を出し潮を吹いた。潮が空に虹をかける。
旋律が零れる。何も遮るもののない世界に母の声が響き渡った。
風が雄大な流れを生む。波の音は強弱をつけ耳を擽った。
小さな魚が次々と跳ねる。
まるで母の調べを指揮に、世界が歌っているようだった。
その世界に幼い自分はどうしようもなく魅せられる。
母が歌う。自分もそれに合わせて歌った。
拙い歌が世界に溢れていく。それでも自分は満足だった。
笑う。母もまた笑った。
そんな世界が、ずっと続くと信じていた。