第101章 航海士
ちゃぷん、と餌をつけた針が海に落ち沈んでいく。
海面でゆらゆらと揺れる浮きを見ながら、水琴はふわ、とあくびをした。
あの美しくも恐ろしい島を脱出してから三日。
大量に作っていた保存食もだいぶ少なくなり、このままではどこかの島にたどり着く前に食料が尽きてしまうと三人は交代で釣りを行っていた。
しかし眠い。釣りは忍耐勝負と言えど、ただ待つだけの時間は単調でつい気を緩めれば瞼が落ち船を漕いでしまいそうだった。
「釣れてるか?」
「全然」
甲板に様子を見に来たデュースの問いに水琴は簡潔に答える。
浮きはピクリとも動かない。
半日かけて全く成果の上がらない様子に気の長い方である水琴ですら焦れてきた。
「っああああ止めた!!」
もっと短気なエースならば尚更だ。同じく全く動かない浮きを睨めつけていたエースはぱっと釣竿を放り出し甲板に寝転んだ。
黒のテンガロンハットを顔に乗せ完全にふて寝の体勢である。
そんな船長を呆れたように見下ろし、デュースは溜息を吐いた。
「釣れなくてもやるしかないんだ。保存食だってあと三日分しかねぇんだぞ。それまでに島に着かなかったらどうする」
「三日もありゃ着くだろ。いけるいける」
「こんな凪の状態で無理に決まってんだろうが」
力なく垂れさがった帆はそよりとも動かず役目を果たせる時をしょんぼりと待っている。
いざとなれば水琴の風があるとはいえ、能力を使えばそれなりに体力も消耗する。
なるべくなら体力は温存しておきたい。となればやはり釣りは頑張らなければならない。