第1章 Another Story
そのまま。
口付けせずに舌先だけを絡ませると。
ビクリと体を震わせ逃げようとする凛の舌ごと絡めとり、そのまま唇を奪った。
「ん……っ!?」
頬を包み込むように置いた両掌を、必死に引き剥がそうと力を入れる凛の両手首を頭上で一纏めに拘束、して。
あいた片方の手は逃げられないよう顎を掴んで固定する。
「ふ……っ、んぅ、んんんっっ」
苦しそうに歪めるその表情でさえ、キレイで。
角度を変える度に出来た隙間から取り込む酸素にさえ、嫉妬する。
酸素なんていらない。
もっともっと、俺を欲しがってよ。
「……か、け…っ」
抗議する声なんて聞きたくない。
「ま、……って」
そんなのすぐに塞いであげるから。
「━━━━━翔琉っ!!」
声が聞こえる、直前。
手首を拘束していた腕が解かれて、ドン、と。
体を押された気がした。
「凛、ちゃん」
目の前の彼女は、右腕を口元へと寄せて、苦しそうに肩で息をしながら。
紅く光る瞳を、こちらへと向けていた。
「それ……」
は、としたように瞳を伏せると。
凛の瞳はもとの漆黒に戻っていた。
「………なんだ、凛の方がやっぱり力強いんだね」
「これは、違……っ」
「ならちゃんと、拒否ってね?」
「ぇ」
嫌なら強引に、引き剥がせばいい。
あんなかわいい告白されて、今さら我慢する方が無理だ。
止(と)められない。
止(や)めるつもりもない。
だから嫌なら、凛が止めて。
ちゃんと俺を、全力で止めて。
「目の色、変えなくていいの?」
紅く光る時に、力を出すのなら。
漆黒の瞳のままじゃ俺を止められない。
「………必要、ない」