第4章 夕虹
耳にタコができるくらい言い続けてきたつもりだけど。
この人には、全っ然届いてないわけ?
俺は、あきれてため息をついた。
「言ってるじゃん……こんなバイトしてたら捕まるよって。売るのも買うのも。何度も言うけど俺ら未成年だよ」
「うん……」
「どうしたの。やめたくなったの?」
「……そうじゃないけど」
……嫌なわけじゃないの?
俺は、根気強く智の言葉を理解しようと努力する。
この人は、言いたいことを隠す傾向があるから、表面上だけ見てたらダメなんだ。
俺はポッキーをもうひとつ催促しながら、ベッドに頬杖をついた。
「じゃあ……どうして急にそんなこと言うの?」
「…うん…なんか……さ」
智は、手についたチョコレートを舐めて、俺を力なく見て、ぽつりと言った。
「……さっき、駅で、松本と会ったんだ」
……松本?
「俺のクラスの?」
「うん。……でもなんかすっげー嫌で……こんな自分を見られたくないって思っちゃって」
「……うん」
「消えたくなった」
「……そう」
「不特定多数の相手をしてるときは、そんなこと思わないんだけど。知ってるやつには見られたくない。俺は、そんなバイトしてんだなぁ……って」
そう思ってさ……、と智は自嘲気味に呟いた。