第3章 夏祭りと山姥切長義.. 𓈒𓏸
長義が縁側から少し歩み寄ると、私は自然と背筋を伸ばした。
浴衣の色合いが、夏の光に柔らかく映えて視線をそらすことができない。
長義も美桜の浴衣姿をしばらく見つめたまま小さく微笑む。
普段の落ち着いた大人な彼と、今の穏やかさを帯びた笑顔のギャップに、胸がトクンと高鳴った。
「せっかくの祭りだ。屋台、見に行くか?」
4日ぶりに聞く長義の声は柔らかく、でも少し低く響いた。
私は小さく頷き、彼の隣に並んだ。
みんなの笑い声や、太鼓の音が遠くから聞こえて、まるで二人だけの世界が庭の奥に広がったように感じた。
歩きながら、光忠や歌仙が手際よく食事を並べた屋台を眺める。
焼きそばや焼きとうもろこしの香ばしい匂いや、金魚すくいやヨーヨー釣りに挑戦して賑わう声、色とりどりの提灯が揺れる景色……すべてが、普段とは違う特別な時間のように思えた。
「……私は長義が修行に出て、4日しか離れてなかったのに
こうして一緒にいると、何だかもっと長く会ってなかったように感じる」
私の胸の中で、短くも会えなかった時間の距離感が軽やかに溶けていく。
「……俺にとっては、ずいぶん久しぶりだがな」
長義は少し遠くを見つめながらも、優しく微笑む。
その声や目線に、胸の奥がじんわりと温かくなる。
長義は時折、美桜の顔や仕草をそっと覗き込むように見ていた。
距離は近いけれど、触れているわけじゃない。
でも心の距離は確かに縮まっているのが分かる。
私は長義の視線に少し照れながらも、自然と笑みを返した。
庭の奥では屋台作りと並行して、山伏たちが作っていた花火の大筒を準備している姿も見えた。
みんなのいろんな声が響く中、私達の時間はゆっくりと流れているように感じた。