第19章 忘れさせて※
カホはリビングから出てきた沖矢に抱きついてキスをした。
沖矢を求めるように、首に手を回して沖矢の唇を貪った。
沖矢はカホの行動に驚く。
こんなにも自分を求めてきたことは今まで無かったから。
「…っ…カホさん。どうしたんですか…」
「んっ…はっ…」
沖矢がそう尋ねてもカホはキスを止めなかった。
返事の代わりにカホは瞳を開けた。
熱い眼差しで沖矢を見つめた。
瞳が揺れて、瞳の奥まで見られているような。
沖矢はこの状況を理解しきれず、ただただカホのキスを受け入れるだけ。
ふと彼女の襟元に小さな破片のような物を見つける。
それを沖矢はカホにバレないようにそっと取る。
盗聴器と発信機…
こんなことをするのは、あの男しかいない…
沖矢はそれを手のひらの中で握り潰した。
少し前の坊やからの電話。
─カホさんが安室さんと会っちゃったんだ!そのまま安室さんがカホさんを送るって言って、それを阻止しようとしたけど駄目だった。もしかしたら安室さんに何か仕掛けられてるかもしれないから気をつけて!─
案の定カホは安室君に盗聴器と発信機を付けられた。
恐らく、この場所も、俺の事もバレた。
彼は今後この家に何かしら仕掛けてくるかもしれない。
俺の事もより深く調べるかもしれない。
対策を、練らないとな…
だが、その前に、
カホをどうにかしないとな
「カホさん」
沖矢はカホの顔を両手で包んで自分から離させた。
カホの目は涙が溜まっているのか、濡れて瞳が揺れているように見える。
「落ち着いて下さい」
「昴さん…」
沖矢を呼んだ声は熱っぽくて、甘ったるい声で
沖矢は目の前のカホの姿に込み上げてくる何かをグッと押さえ込んだ。
「何が、あったんですか」
「思い出したくない…嫌だ…嫌なの…」
カホは沖矢のシャツをぎゅっと掴んだ。
沖矢はカホが酒に酔い潰れた日の夜を思い出した。
あの時もこんな風に弱って、泣いていた。
彼女がこんなになるのは、いつも彼を思い出している時。
そう、バーボンを、思い出してる時
一度会っただけで、これか…