第6章 砥石が切れたみたいだから【エンカク】
「退却させて俺を入れろ」
「お前ではこの戦場を、変えることはできない…!」
「奴の3倍は蹴散らしてやると言ってもか?…ゴチャゴチャ言うな。さっさと俺を出せ」
「できない…!!」
采配をする者はこれぐらいの脅しや威圧で屈していては務まらない。ドクターが首を縦に振らないことぐらい予測していた。ただ、彼の指揮下で戦うと強豪と戦えると分かっていたために声をかけたのだ。
だが思い通りにはならず、エンカクは落胆の溜息を吐いた。
「はぁ……もういい。なら勝手にやらせてもらおう」
「!待て!エンカク!!」
ドクターを後ろに放ったエンカクは、背中の剣を手に高台から高台に移り、地上へと降りて行った。
立て直したドクターは、すぐに12名のオペレーターへと繋がる通信機器に向かって叫んだ。
「各オペレーターへ告ぐ!エンカクが戦場に乱入した!目標を見誤って誤射だけはするな!!繰り返す―――!」
その声は激しい雨の中で、電流を扱う彼女の耳には届いていなかった。