第6章 砥石が切れたみたいだから【エンカク】
医療部に向かっている時だった。
不意に天井にあるスピーカーからドクターの声が響き渡った。
「<<現時刻を以って緊急徴収する。名指しされたオペレーターは指定された場所に集合せよ。前衛―――>>」
スピーカーから淡々と名前が呼ばれていく。その中に知り合いが呼ばれるのを目を伏せながら聞いていた。
「戦いとはそういうものだ」
何を察したのか。エンカクはさくらにそう言う。それに口を出す前に、続けて彼は言った。
「お前、どこから来た?何故まともに戦えない奴がここにいる?」
「…」
元の世界の事は極力言うな、とドクターに咎められている彼女は口を噤んで何か別の話を考えた。が、その一瞬の間でさえ、エンカクには次に出てくる言葉が嘘だと把握するのは難くなかった。
ピタリ、と止まった足にさくらも察し、諦めてふぅと息を吐いた。
「ここにいるのは…感染者の、みんなを治したいがためです」
「はん?お前みたいなやつが鉱石病を治せるのか?」
「そう、らしいです。一緒にいると徐々に治るんだって」
「嘘臭いな。騙されているんじゃないか?実は、お前の持つその源石術をロドスの兵力として使うために」
「…まぁ、それでもいいと思ってますよ。…って言っても平和なところから来たんで戦闘経験なんてないんですけどね」
「……馬鹿が。お前なんか戦場に出たら1分も持たな―――」
エンカクが言い終わる前に、スピーカーは最後の一人の名前を呼んだ。
「<<前衛オペレーター、さくら>>」
「なっ…!?」
目を見開いて天井を仰ぐエンカクはすぐに腕の力を強めた。が、既に遅かった。さくらの体はその腕から抜け出し、廊下を走っていく。
「おい待て!!」
その後を追ってエンカクは走り出した。