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【アクナイ】滑稽でも君が好き【短編】

第6章 砥石が切れたみたいだから【エンカク】



「おまっ…そんなことで憤っているのか?」

「そんなことだあ!?医療部門は忙しいのに私に甘いもの食べさせたいからってめんどくさいメレンゲを泡だて器一本で作ってくれた逸品だぞ!?それを30秒かからず完食したあの天使を許せるか!?」

「あー…確かに腹は立つが、血を流す程でもな……何だその目は」


その睨視は、まるで敵に向けるもののように感じ、エンカクはいよいよ腰にある得物を収めている鞘に手をかけた。


「怒りが止まらないって顔だな?俺が相手してやってもいいんだぞ?」


ピリ、とした空間に包まれるデッキに、見守るギャラリーは冷や冷やとしている。

そんな空気を不意に切り裂いたのは、幼い少女の声だった。


「さくらさん!」

「…ススーロちゃん?」


パタパタと走って来たのはススーロだった。その後ろにはドクターが長距離走でもしたように息を切らしてついて来ていた。

彼女はさくらの服を掴んで彼女の体を左右に揺らした。


「何で私のスイーツ如きで喧嘩するの!大人げない!また作ってあげるからやめて!!」

「い、いやだってあれは超大作だった…ぐえ」

「さくらさんんん…!?」

「ご、ごめんよおお!!」


自分より小さい存在に頭を下げるその姿は見ていて複雑な気持ちにさせられる。だが、慌てたその様子はエンカクの気分を少し良くした。


「ご迷惑をおかけしたイグゼキュターさんとエンカクさんにも謝って下さい!」

「うう…」


さくらは未だぼーっとそこに立っているイグゼキュターの下に行くと、同じように頭を下げた。
小さな謝罪の言葉に、黒い羽は力を無くしたように垂れ下がった。一応臨戦態勢を取っていたようだ。


「さて私は部屋に帰りますさような「おい待て」…」


エンカクを見るさくらの表情は一瞬にしてこれでもかというようにクシャクシャに歪む。


「ご迷惑かけた俺に対して謝れよ。なあ?」

「はああああ??誰がかけたってー?…あぁ、その節は失礼しました脅迫犯のエンカクさんっ!」

「ァア?何だと変態女…!」

「誰が変態だ、誰がぁ!!離せよこのっ、勘違い男!!頭ん中真っピンク男!!」

「んだと阿婆擦れ女が!!」


その場に幼い少女もいるというのに飛び交う汚い言葉にドクターは頭を抱えた。


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