第2章 拝啓、ロボットさんへ【イグゼキュター】
アンセルが出て来たすぐ近くの医療部門の部屋に入るなり、彼女の姿を忙しなくキョロキョロと探す。
奥の部屋か、とまた足を前に出した時だった。後ろから引っ張られたのは。
振り向いたイグゼキュターの遥か下で小さな女の子が両手で大きな手を引っ張っていた。
「さくらさんを看ているススーロと言います。…彼女はこちらです。どうぞ」
「…ありがとうございます」
小さな案内人は笑うと、手を離し、先導して彼の前を往く。イグゼキュターはその歩幅に合わせてゆっくりとその後ろを歩いていく。
やがて一つの病室に着くと、ススーロは背の高い彼を一度見上げ、横開きのドアを開いた。
「さくらさん。お客様だよ。…あまり暴れないでね。傷が開くから」
「私…に?」
中に彼女はいた。それも、傷を負ったとは思えないほどケロリとした姿で。そのブラウンの目がイグゼキュターを映した後、顔は青く染まっていく。
「ご、ごめんなさい…」
突然の謝罪が、怪我をしたさくらから発せられた。
イグゼキュターは一歩二歩と歩き出すと、病室の中に入り、さくらが寝ているベッドの横まで来た。
その様子を見て微笑んだススーロはそっとドアを締め、出て行った。
「どうして貴方が謝るんですか。…今回は私の判断ミスで起こった失敗でした。…申し訳ありません」
「い、いや!!私が出しゃばらなくても貴方なら避けられたか、もしくは超合金の体にはナイフは刺さらなかったかなーって…」
「私は、ロボットではありませんので刺さります」
「で、ですよねー」
へら、と笑うさくらはいつも通りだった。
腕に巻かれた包帯と関節に通された2本の管があること以外は。特に変わらない笑顔を向けている。
「確かに痛かったけど、貴方に謝られる謂れはありません」
「…」
「貴方に怪我が無くて良かったです。…本当に」
再び笑ったさくらに、不意にイグゼキュターの背筋にゾク、と何かが過ぎて行った。
「…」
気付けば、ベッドに手をかけ、その薄く開いた唇に自分のものを重ねていた。