第38章 轍 *
翻訳の仕事がひと段落した所で背中をグッと伸ばし携帯をみる。
「12時過ぎか…。なに食べよ」
戸棚を開けたがカップラーメンの在庫なし。
冷蔵庫を開けて見たが作る気力なし。
適当にラーメン屋で食べて、その後ちょっと買い出しに行くことにし、身支度をはじめる。
鍵と財布を持ったところで携帯が鳴った。
「あれ。また主任から…」
あんなことがあり、あれ以上謝られたら逆に傷付く。
電話の用件が違ったら失礼だし…おろるおそる通話ボタンを押す。
「あ…もしもし…。お疲れさまです」
『いま電話しても平気か?』
「はい。大丈夫ですけど…。あっ、会社の件。月曜日からよろしくお願いします」
当たり障りのない会話。
謝らせる方向へ誘導しないように気を付けていると、昼食の誘いがあった。
少し控えめ気味に話していた主任はいつもの声質に戻ってきて、主任の車を待つため外に出ることにした。
「急に呼び出して驚かせたな。食べたいもの決まったか?」
「ラーメン屋行こうと思ってて」
「ラーメンいいな。こだわりなかったら場所は俺が決めてもいいか?」
「お願いします。主任が連れて行ってくれたところどこも美味しいです」
「ラーメン屋は多いから迷うよなぁ。俺はどちらかと言うとしょうゆが一番なんだが湊は?」
「味というよりあっさりしてれば良いかなって。答えになってませんかね?」
「いや、それは俺も断然あっさりさっぱり派だ。よし。あそこにしよう。ちょっと並ぶかもしれないけど構わないか?」
「あ、はい。それは全然」
並んで食べることをしたことがなく、主任がお勧めするラーメンはどんな味なのだろうと想像するだけで、大して減っていなかったお腹がぎゅるっと動き出した。