第34章 訪問者
お布団をかけてもらって
主任は俺を甘やかすように
頭を撫でてくる。
「じゃあ俺はこれで…」
「あっ、あの主任」
「ん? やっぱり絵本
読んでほしくなったか?」
「ああいやそっちじゃなくて。
メールとかLINEとか…
もしよかったらと思って」
「そういえば聞いてなかったな。
教えてくれるなら助かる。
LINEでいいか?」
「あ、はい」
枕元にあった携帯に手を伸ばし、
簡単通信を行う。
数少ないLINEメンバーが追加された。
「じゃあまたな。
ちゃんと風邪なおせよ?」
「あとはもう微熱なので
もうひと眠りしたら完治しますよ。
主任こそ、俺の熱でぶっ倒れないでくださいね」
「よけいなお世話だ。
じゃあ…本当にこれで帰るな。
不安になったらいつでもLINEしてこい」
「そう遠くないうちに」
「ああ。待ってる」
牛垣主任はスキンシップが軽い人なんだ
ということがこの短時間で分かった。
仕事では抜かりなく上司面をしているが、
社員たちが信頼し、
打ち解けているのは
スキンシップの良さなのかもしれない。
軽口を叩いてみたら
同じようにかえってきて、
帰ってしまう寂しさは少しも感じない。
音をなるべく立てないように
戸を閉めたりだとか
細かなところに気を遣ってくれて、
俺の気持ちは満たされたように温かくなっていく。
(朝ごはん、なに作ってくれたんだろう…)
誰かに作ってもらうのは
いつ振りだろう。
長瀬以外だったら…誰がいたかな。
俺のなかにはまだ、
長瀬という恋人の姿が強く根づいている。
簡単には忘れられないけど
今日はちょっとした幸せを感じて、
そんな寂しい気持ちも
ほんの少しずつ忘れていける気がした。