第13章 夏の終わり
「...3年じゃないよ。」
第3体育館での練習を終え。食堂。
ご飯を食べ終わった研磨くんとやっくんが、まだ食堂にいて。
木兎くん達はやっくんを含めて話をしている。
私はたまたま近くに座った研磨くんに、さっきの話をした。
先生のためなのか、とおもったこと。
猫又先生が恩師なんだね、3年も一緒だもんね、なんて。
何となく口に出したら。
研磨くんが、「3年じゃない」と言う。
『...どういうこと? 』
「...舞衣に、前話した、クロがバレーボールにハマった瞬間....。」
『あ。ネット低くしてスパイク打てたーってやつ? 』
「うん。あれ、ネットを低くしてくれたの、監督なんだ。」
『え!? そうなの!? 』
「うん...。猫背のオトナ、今も覚えてる。...後で、クラブチームの人に教えてもらったんだ。音駒高校の、猫又監督だって。」
『そうだったんだ...。』
黒尾くんを、バレーボールにもう一段階深くハマらせてくれた人。
忘れられない記憶を、感覚を、作ってくれた人。
「...クロ、多分、監督のところでバレーがしたくて、音駒高校を受けたんだと思う。」
『そっか。』
「まぁ、復帰したのはクロが2年生からだけど...。」
そんな監督の念願を。きっと、叶えたくて。
そして、黒尾くん自身もきっと、烏野とのバレーボールが楽しくて...
いや。
黒尾くんだけじゃないね。
研磨くんも。やっくんも。犬岡くんも。リエーフくんも。皆。
監督の念願で。
何より、本人たちが、楽しくて。
きっと、やりたいんだろうな。
「オレは別に、どうでもいいけど...」
研磨くんから次に紡がれたのは、私の気持ちを見透かしたかのような言葉だったけど、
「...でも、翔陽は面白いから、倒してみたいと思うよ。」
この言葉で、きっと研磨くんも烏野とのバレーボールに何か特別な感情があるんだろうなって思う。
『ふふ。私も頑張んなきゃね! 』
「...舞衣はちょっと動きすぎ。たまには休んでね。」
『え? あ、ありがと、』
「こっちこそ。いつもありがと。オヤスミ。」
突然のお礼に、私は昨日の黒尾くんのように固まってしまう。
いつもありがと、か。
ふふ。
嬉しい。
それだけで、最後の1日が頑張れそう。