第15章 もう1人の親友
「...倉尾、今日ずーっと顔悪いぞ。」
『やっくんうるさぁーい...。』
週があけて、月曜の放課後。
日直が一緒だったやっくんと、教室で2人。居残りの作業。
明日の集会で使う資料のホチキス止め。
チラリと時計を見ると、もう6時。
「今日は練習、間に合わねーなぁ。」
『そーだね。』
「自主練くらいなら行けるか。」
『そーだね...。』
「おい、マジでどーしたんだよ。」
部活。
行きたくない。
行きたくないなぁ。
あんなに、恋や愛で黒尾くんの練習を邪魔したくなかったのに。
バレー部に水を差したくなかったのに。
昨日の光景が頭から離れなくて。
今日だって、たまに後ろを振り向く黒尾くんの顔を、ちゃんと見ることができなかった。
「なに? 具合悪いの? 」
『や、そーゆーんじゃないけど...でもまあ心は風邪を引いてると言っても過言ではない気がしないでも...。』
「は? 』
『今は優しくして! 』
「なんだよ、悩み事かよ。」
悩んでる時。疲れてる時。
優しくしてほしい。
1年からそこそこ深い付き合いをしているやっくんは、なんやかんや私のそういう性格をわかってくれている。
進路系? 友達系?
そう聞いてくれた。
『...やっくんを巻き込みたくないから嫌。話したくない系。』
「はぁ? 」
こんなこと初めてだ。
今まで、こういう時は大抵やっくんに相談してきたから。
「何? 俺、そんなに仲悪かったっけ? 」
『そうじゃなくてさぁあ〜、』
聞いて欲しいんだけど。
すごく聞いて欲しいんだけど。
やっくんの大切なバレーを、私の私情で汚したくない。
こんな邪は気持ちをもって部活に来て欲しくないだろう。
「ふーん。俺、おまえとそんな仲良くなかったんだなぁ〜。」
『うぐ...』
「言う? 」
ニヤニヤしながら聞かれる。
『...恋愛系。』
「え、まじかよ。」
驚いた顔をされる。
そりゃあそうだ。
高校に来て、彼氏なんかいたことなかったし。
「なに? また知らんヤツに告られた? 」
『んーん...好きな人ができた』
「え! まじで! 」
『けど...』
昨日の光景を思い出すと、また心に漬物石がのったような気持ちになる。
『...女の人と、デートしてた...。』