第12章 蠍の火
『あの人…最近この世界に来たばっかりなんですけど…スチュワードさんは、ご存知だったんですか?』
『なんだって…?この、世界?』
『あ…え、えっと、秘密だったんですけど…その、あの人…テラとは別の世界から来たらしくって…』
驚いて言葉も出ないスチュワードは、一瞬メランサの言葉を疑ったが、嘘を吐く理由も、彼女が嘘を吐くことがないこともわかっていた。だからこそ、疑いはすぐに無くなった。だが、頭は理解できていない。そんな非現実的な事。
しかし、思い出すのはあの星空を見た時のリアクションだった。あれは、異世界人だからこそできる反応だとしたら、話がかみ合う。
『彼女は…僕を助けてくれたんだ。だから知ってる。それだけだよ』
『…』
『アドナキエルが言ってたこと、僕にも教えてくれる?』
『も、勿論です…まずこの世界にきてから2日、あの人は記憶も飛ぶほど泣いていたようで―――』
メランサの言う通り、彼女には星空を見た時の記憶がなかった。それは仕方のない事だ。世界の惨状に怯え、ロドス中の人間の目に怯え、帰ることができるのかという気持ちに苛まれ、不安な夜を一人で過ごしていたのだから。
『(早く存在に気付いていたら、君の横に立っていたのは僕だったのかな)』
そう言って肩を落として過ごしてきた。彼女と仲良くしている友人がとてもうらやましい。妬みがないなんて、嘘は吐けない。でも自分は記憶にも残らないんだな、と思えば気分は沈んでいくばかり。
賭け付きのボードゲームをしたその翌日。何となくあの星が見たくなって、体が悲鳴をあげたあの時間に寝床から起き上がって部屋を出た。デッキに行くには遠回りになるのに、あの階段をわざと通るところからして大分思考をやられているんだろうな、と嘲た。そんな時だった。
「スチュワード?」
ずっと聞きたかった声が後ろから聞こえて、矢庭に振り返った。