第21章 もどかしく思ったり、思わなかったり
「おはよう…」
「すっかり夕方だよ」
「んん…ありがとう…お陰で気分がいい…でももう少しこうしていたい…」
「いやいやそろそろ行ってくれないと私の精神すり減るから」
「もう少しだけ…」
人に頼まれると私は甘い。
故に起きるのを拒否しているスチュワードを叱ることができない。このままではよくわからない空室で朝を迎えることになる。そうすると正式な寝床ではないソファで寝たことによる腰の負荷は計り知れないだろう。
もう少しだけ、という言葉を信じ、再び目を閉じるスチュワードの頭を撫でるのを再開した。
ただ、先程と違うのは目を閉じていても彼の意識ははっきりしており、眠りに落ちる前より手を握る力がしっかりしていることだ。
「…う…ん、さくら…?」
どうやら次はアドナキエルが目覚めたらしい。
左手で彼の頭を撫でる。
「はい、おはよう。アドナキエルうっ!?」
腹が締まった。
「ずっといてくれたんですか…?」
「いろって言ったの君らだわ…」
「…ん…そうでした」
頭上を仰いでフーと息を吐いた。
この状況、別の事を考えないと気がどうにかなってしまう、と別の事を呟いた。
「…サナ、か…私より若かったな…それに、制服着てた」
「制服ですか?」
「学校指定のやつだろうね。ていうことは高校生か。若いなぁ。随分気に入られてたみたいだけど」
「…僕たちの事最初から知っていて…一番好きな"キャラクター"だって言ってたけど…」
「!」
元の世界から来た人が口にしたキャラクターという言葉。それは今ゆっくりと呼吸をしている2人やロドスのみんなが何らかの作品の登場人物ということになる。
そして、彼女はこの世界を知っているということになる。それはとても重要なことだ。
それにしても一番好きなキャラクターがアドナキエルとスチュワード…。
「(んん?…はぁ、早速かぁ)」
モヤ、としたのは気持ちに気付いたからこそ起こるもの。所謂、恋する者全員に起こりうること。
参ったなぁ、と思っていると、頬にツンツンと白い毛が突いて来た。一体なんだというのだ。