第20章 無意識の悪魔
「2人とも大丈夫?気分悪い?」
香水と言うからさりげない匂いかと思えばそうではない。すれ違ったら屋外であるのにも関わらず鼻を曲げるほどの臭いを発する強いタイプの香水だ。これは私にも少々共にいるのは辛いものがある。
ならその倍は神経に届くのだから心中察してしまう。
「…さくら…」
「うん」
「…さくら、だ…」
「うん?…っ!…アドナキエル、スチュワード…!ちょ、まっ…!?」
すん、とダイレクトに呼吸する音が聞こえたのは耳から近いからだろう。
ゾクゾク、と背筋を撫でられる感覚に、自然と顎が上がり、天井を仰ぐと変な声が出かかって思わず右手で自分の口を押えた。
目だけ動かして左右を交互に見ると、2人とも頬に冷や汗を掻いている。本当に辛かったのだろう。
「さくら…一緒にいて…」
「いるよ」
アドナキエルが珍しく敬語じゃない。
そんな余裕もないほど参っているのだろう。
「安心する…」
「ん…ならよかった。とりあえず座ろっか?」
聞きながらも近くのソファに座らせた。
同時に私も座ると、アドナキエルがグイグイと体を押して来て一瞬離れて欲しいのかと思ったが、中々動かない私に覆いかぶさるように倒れて来たので寝転びたかったのだと察する。
倒れる際に下敷きになる形で左側にいたスチュワードに倒れてしまったが、何か文句を言うわけでもなく、身を任せて同じようにソファに寝転ぶ。スッと腰に腕を回してきた。驚いた声を抑え込む。
「スチュワード、重くない?」
「重く、ないよ…だからもう少し…こっちきて」
「う、うん」
力無く顔の横に置いていたスチュワードの手が、彼の胸板に置いていた私の手を掴んで指が絡まってキュ、と握られる。
私にしては気が気でない状態だが、別の意味で気が気でない状態な2人がいるため、落ち着くまでこうしていよう。
ゆっくりと過ぎて行く時間の中で、唯一空いている左手でアドナキエルの白く柔らかい髪を撫でていた。
「(…やっぱり、好きなんだなぁ…)」
この件で改めて気づいた。
自分は悪女で、この2人が好きなんだと。