第19章 ロックオン
「むしろ貴方に優位になることしか言ってませんよ、先輩方」
「うーん…それは些か抽象的すぎますね。何を言ったんですか?俺たちの悪いところですか?」
「まさか。…でも、答えかねます」
カチリ、とゆっくり白い駒を慎重に置いた。
だがその一手を読まれたように、すぐにカチン、と黒い駒が陣地を攻める。レイリィは目を見開いて眉間に谷を作った。
「それは困ったな…では、質問を変えようか。…君はさくらに何を言ったのかな?」
スチュワードは普通に言ったつもりだったが、明らかに威圧的だ。アドナキエルも思わず笑って牽制のために彼の服を引っ張った。
レイリィはチェスも先読みされ、思考だって読まれている気分に陥って苦笑いを浮かべる。
エリートオペレーターに嘘は通じない。ならばもう吐くしかないと駒を移動させながら言った。
「…ただ、好意を持っていると」
レイリィはそう言えば2人が何らかの反応を出すと思っていた。
突然指を止めたり、駒を置く力がさらに強くなったり、眉を上げたり…起こりうるもの全て予想して観察した。
「「なるほど」」
だが一切の動揺を見せず、興味深そうに呟いてスチュワードは盤を見て腕を組み、アドナキエルは駒を置いたのだ。
この男たちは一筋縄ではいかないことで少し有名だ。一方は頭が切れる。もう一方は行動が読めない。だが、ここまでとは思わなかった。
同じく好意を向けている相手が盗られそうだからここまで憤慨しているのだと思っていたのだが、レイリィの予想は大きく外れた。
「俺はてっきり貴方が俺たちのある事ない事をさくらに流して、さくらの不安を煽っているんじゃないかと思ったんですよ」
「!」
「さくらはやっとこのロドスに慣れてきたところなんだ。それをまた第三者の手で壊されたくない。…さくらを連れ去り利用しようとしたレユニオンみたいにね」
「…それで、そんな包囲網を張っているんですか」
「俺たちの大事な人ですからね」
溜息交じりにとんでもないことを言う男たちだ、と内心思いながら指す。
2人は愛に狂ってはいなかった。ただ、1人の人間を守りたいという一心から威圧を出していたようだ。
カチン、とまた黒い馬が唸りを上げる。