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私が好きになったのは熊みたいな人でした

第4章 竜


はぁはぁ、と荒い息が首元にぶつかる。

べロリと鎖骨を這う舌も、私の上に感じる重みも、気持ち悪くて仕方が無いのに振り払う元気はもう無かった。
助けてくれるグレンさんも、流石に私が森の中に居るなんて思わないだろう。

「っ…」

グレンさん…
騎士が宿に来ているから戻って来てはいけないと、伝える事が出来なかった。どうか、彼が騎士に捕まる事が無いよう。グレンさんが幸せに過ごせます様に。

私の服を脱がそうとしていたオリオンさんが焦れて、私の服を引きちぎった。ビッ、ビッと布が避ける音が聞こえる。

諦めて目を閉じた…



その時だった。






何だか、音が…
そして地面が揺れている様な気もする。

オリオンさんの動きが止まり、息を飲む音が聞こえた。

「おい…う、嘘、だろ…」

その声に目を開けると、オリオンさんが一点を見詰めて顔色を真っ青にしていた。一体何が起こったのか確認しようにも、オリオンさんが上に跨っているので起き上がり振り向くことも出来ない。
ただ、何だか嫌な臭いがした。

「あ、あぁ……」

私の事など忘れてしまったかのように、一点のみを見詰めている。ガタガタと震え出したオリオンさんの様子が尋常ではない事に気が付いた。

ボタッ──
ボタボタッ──

水分を含んだ何かが落ちる音がして腐敗臭が強くなった。ズシンと地面が揺れて枝がいくつも折れる音、バキバキと樹が倒れる音がした。




ギャオオオオオウ!!




地面を揺るがす様な、大きな鳴き声が響いた。

「ひっ!」

オリオンさんが恐怖に引きつった声を上げ、ひっくり返る様に尻もちを着いた。お陰で私の上から退くことになったオリオンさんに、私は何とかふらつく体を起こした。
そして音がする方を振り返った。

「なに、あれ…」

私の目に映ったのは、真っ黒でとても大きな生き物だった。樹に体が擦れると体の表面がズルリと剥がれてその腐った肉が地面へボタボタと落ちていた。
その痛みに大きな生き物は体を捩り暴れ、そしてまた肉が剥がれるとその痛みに鳴いた。

「嘘だ、竜がこんなとこに…」

ギャオウ、と鳴いた竜が液体を吐き出した。それが地面や樹にかかり、濡れたその場所がグツグツと煮立った様に泡立つと、シュウと焼けたように煙を上げた。

「う、うわぁぁぁぁ!」

それを見たオリオンさんは、慌てて逃げ出した。
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