第4章 煌めき
伊黒くんがハンカチで拭いてくれる。
…あの夢の手とは違う。
泣いた後、伊黒くんは話を聞いてくれた。詳しいことははぶいた。頬はかっとなった親に叩かれたことにした。それくらいはどこにでもよくあることだから。
「あと…美術部を優先したことに後悔とか何もないけど、不死川くんのソロを聞いたらちょっとうるってなっちゃった。」
実弥とは学校で呼ばないようにしている。ちょっとのことで皆すぐ噂にするから。実弥も霧雨って呼ぶし。
「そうか。まぁそうだろうな。次の本番は出ると良い。先輩が何と言おうと俺はお前に出て欲しい。」
「…ありがとう」
私は伊黒くんとまた仲良くなれた気がして嬉しかった。
ハンカチは洗って返そう。
文化祭が終わった。描いた絵は学園が保存するらしいので、もうあとは帰るだけ。
帰ったら実弥の部屋に声をかけよう。ソロすごかったって。
私は玄関を開けた。
両親がいる。
ははぁ、文化祭のために二日間開けたのか。それなのに私が自慢材料にならないからぷりぷりしてたのか。
「バカ野郎!!」
私がドアを閉めると同時に父親の怒鳴り声が聞こえた。続いて母親の声。
悲鳴じゃない。ギャー!とかアー!とか、言語じゃない。とにかく叫んでる。
この意味のわからない喧嘩はしょっちゅうだ。この人たちは他人から上に見られないと落ち着かないようで、授業参観のあととかよくこうなる。
自分たちより身なりの良い誰かがいた。お前が無駄なことに金を使うからだ。あなたが働かないから。どうして私のせいなの。お前がクズだから。
とかなんとかそんな内容だろう。
クラスには親が社長をしている子もいる。私の両親は共働き。大手企業で働いているとはいえ、敵うはずもない。
どんな育ち方したらこうなるのか。
二人の両親…つまり私の祖父母たちは自営をしており、先祖代々受け継いだものを持っていたのに。
あの二人は見栄をはったり自慢に必死で、全然勉強もしなかったし営業の引き継ぎもしなかったとどこかで聞いたことがある。
前世なのか今世なのかわからないけど。