第4章 煌めき
飾り付けた絵の最終確認が終わり、ようやく美術部に安らぎがやってきたのは文化祭前日だ。
部室はお化け屋敷のようだった。全員燃え尽きていた。伊黒くんも、私も、宇随先輩も。
「文化祭当日は…楽しめよ……」
片付けが終わると宇随先輩は遺言のように言い残し帰っていった。
「俺の文化祭は終わった。」
伊黒くんは清々しい顔でそう言っていた。
何か賛同しちゃう。
夏休みは毎日体操服を着ていた。落としきれない絵の具で汚れた体操服はもはや勲章である。将棋部も吹奏楽部もこの体操服で顔を出した。皆絵を楽しみだと言ってくれた。
薄汚れた体操服のまま帰宅。まだ残暑が残る。
「お帰り。」
「…母さん」
私は聞こえてきた声に驚いた。上等品に身を包んだのは前世と同じ。
珍しい。家にいるなんて。
「どうしたの?その体操服。汚れだらけじゃない。」
「あぁ、これ絵の具。洗っても落ちないから。」
私は靴を脱いだ。
「絵の具?美術部なの?」
「吹奏楽部と美術部と将棋部」
「そんなに入ってるの…?」
「五回くらい言ったけどね。」
私は母の横を通り抜けて洗面台で手を洗った。
落ちていなかった赤色の絵の具が流れていく。まるで血みたい。
「明日は文化祭よね。何するの?」
「何も」
「何もしないなんてないでしょう。吹奏楽部は演奏するって有名よ。」
「美術部を優先したから出ないって十回言った。」
タオルで水を拭く。
母も父も私に興味がない。それは前世と変わらない。
「クラスは?出し物あるんでしょう」
「クラス展示」
「何やるの?」
私はそこでかっとなった。
洗面台の入り口も出口も一つの場所だ。そこに立つ母が邪魔だった。
バン!!と壁を叩いた。母が肩を震わせる。
「おんなじこと何回も言わせるの勘弁してよ、認知症なの…!?あと邪魔、退いて。」
母は青ざめた顔になって静かに身を避けた。私は自分の部屋にかけ上がった。