第11章 雪の日に始まる【冨岡 義勇】
三葉は鬼殺隊の正式な一員ではない
が、縫製係に在籍をしているので少しばかりの給金は貰っていた
それをコツコツと貯めて目標額になり宇随達に着物を仕立てる事にした
見ず知らずの自分を助けてくれて、家族として迎えてくれた宇随達に三葉は生涯をかけて感謝の気持ちを伝える事を決めている
以前から呉服屋の主人と相談していたので奥の蔵から宇随の好みの反物を何点か出してきた
派手好きな宇随だが着流しは割と地味なのを好み小物などを派手にして着飾るのが宇随は好きだった
三葉は大島紬を選びそれは自分で仕立てる事にした
姉様達はいつも誰かが家にいるのでこっそり作る事は出来ない…
と思い、生地だけ選び後は主人に任せた
「ではお兄様の分だけ持って帰られますね」
主人は三葉に声をかけるが、三葉は宇随に選んだ大島とは別の薩摩絣を手にして見つめていた
「これも買えますか?」
三葉の出したお金だと薩摩絣までは買えないが、主人は宇随のさっぱりとした性格が好きだったし、なにより宇随が買う時はいつも5人分の着物を買ってくれる
支払いも「小銭入れは持ってない」と言って釣りも貰わない
「大丈夫でございますよ」
主人が言うと、牡丹が咲いたかの様に嬉しそうに三葉が笑った
大島紬と薩摩絣は風呂敷に包んでもらい呉服屋をでた
酒屋の前では宇随の好きな酒が春の蔵出しをしていてそれも一本買った
両手一杯の荷物を抱え歩いている三葉に定食屋から出てきた冨岡が気付いた
黒く艶やかな髪は冨岡から貰った組紐で高い位置で結んでいて足を踏み出すたびに揺れていた
無地の山吹色の着物に、赤地に黄色の菊の柄が入った帯をつけ今日は袴は着けていないが左足の親指がない為ブーツを履いていた
「三葉…」
振り返ると冨岡がいて、三葉の頬が少し桃色に染まる
「冨岡さん…こんにちは…今から任務に向かうのですか?」
隊服の冨岡を見て三葉は聞いた
「いや、任務からの帰りだ」
「今帰りだと…随分遠くだったんですね」
「あぁ…」
そう返事をしながら三葉の持つ酒瓶に手を伸ばし持ってくれた
「ダメですよ、冨岡さんは任務帰りなんだから…私なら大丈夫ですから」
三葉が言っても聞く気は無いらしく歩き出してしまった