第3章 届かない願い
滲んで見えなくなってくる景色。
そんな俺の上から、さっきよりも優しい口調のしのぶさんの声が降って来た。
「善逸君、あなたを今ここに呼んだのは、慰めるためでも諦めさせる訳でもないの」
「え?それってどういう・・・」
「小乃実ちゃんの持つ特異体質には、ある特徴があるの。その事を話す為に呼んだんですよ」
「特徴・・・?」
話の見えない俺に、しのぶさんは小さく咳払いをした後に説明を始めた。
「小乃実ちゃんの体質の根源はね、彼女自身が感じる恐怖なの」
「恐怖?」
「そう。小乃実ちゃんが恐怖を感じれば感じる程、鬼を寄せ付けなくなる力が強くなる。・・・それでも、もし一二鬼月に遭遇してしまったら、どこまでその力が通用するかはわからないけど」
「それじゃあ、結局小乃実ちゃんは恐怖に晒され続けてそのまま死んじゃうって事!?そんなの・・・!」
「善逸君、もう少し話を聞いていて欲しいの。小乃実ちゃんはこれまで、何度も鬼狩りに連れ出された。正気を保ったまま何度も何度も続けて行くと、どうなると思う?」
「・・・慣れ、る?」
「そう。善逸君は物分かりが良くて話が早いですね。そう、慣れ。勿論鬼の恐ろしさや、目の前で鬼殺隊員が殺されるのを見るのは、気分の良い物ではないですよね。だけど、小乃実ちゃんには危害が及ばないから。無意識に『自分は大丈夫』そんな風に感じても無理はない事ですよね」
話の合間に、しのぶさんに促されてお茶を一口飲む。
そこで自分の喉がひどくカラカラだった事に今更気付く。