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千分の一話噺

第499章 目的地


「もっと、遠くへ…」
私はただひたすら遠くを目指した。

目的地がある訳じゃない。
風の向くにまま、気の向くままに車を走らせる。

「…こんなに楽しい時間があったんだ」



私は今まで仕事一筋で生きてきた。
脇目も振らずただひたすらに家族の為に働き続けた。
子供も独立し、妻と二人の時間が増えた。
そして定年を迎えると、私にはする事がなくなってしまった。

そんな時に妻が…。
「昔みたいにドライブ旅行へ行かない?」
車のキーを私に渡した。

普段は妻が買い物に使うくらいで私はほとんど運転していない。
運転自体は仕事でしていたから問題はないが、妻とドライブなんて何十年ぶりだろうか?
「どこへ行こうか?」
「どこでも良いわよ
あなたが行きたい所なら…」
付き合い出した頃に何度かドライブはしたことはあるが、今、行きたい所と言われても…。

とりあえず車を走らせる。
海へ行くか?山へ行くか?
仕事なら客先…、買い物ならお店…、目的地の決まっていない事などなかった。
「ねぇ、これからはもっと自由に行きましょ」
妻の笑顔を見るのも久しぶりな気がする。
「そうだな…もう仕事じゃないんだから…な」
まだ少し寂しさが残っている。
「そうよ、もう仕事人間から卒業しましょ」
このドライブが卒業旅行となる様だ。


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