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千分の一話噺

第485章 憧れ


昔昔、あるところに悩める牛がいました。

「も~………いや!
何でうちは牛なん?
鹿ちゃんみたいにスマートになって人気者になりたいわぁ」
牛は鹿を羨んだ。
しかし、その鹿は…。
「私は牛さんが羨ましいわ」
と、牛を羨んだ。
「何でなん?うちらみたいに太らされ乳絞られ、挙げ句肉で売られるんやで!」
牛が反論する。
「でも、毎日ちゃんと食べられて、夜露に濡れずに安心して寝られるじゃない…
私たちは毎日食べられるか分からないし、野宿は当たり前だし、いつ襲われるかも分からないのよ」
鹿は現状を嘆いた。

牛は考えた。
(確かに毎日食べてゆっくり眠れるけど…)
「も~!でも~やっぱり鹿ちゃんみたいになりたいわぁ」
牛はぼやいた。

『ならば、鹿にしてやろう!』

天から声が降りた。
と、同時に牛はみるみる痩せ細り鹿に姿を変えた。
「えっ!?うそっ!?
………鹿になった」
牛は喜び野原を駆け回った。
「身体が軽いわぁ」
牛は疲れるまで遊び回り、牛舎に戻った。
「鹿が入る場所なんかないぞ!」
仲間だった牛たちに追い出されてしまった。

牛は仕方なく木の下で野宿をしようとした。
しかし…。
「何だ?お前は!?
ここは俺たちの場所だ、他に行きな!」
別の鹿のグループに追い出された。

「お腹空いたわぁ…」
牛は夜の森をふらふらとさ迷っていた。
「ガルルルッ!」
腹を空かした狼が現れた。
「きゃあぁぁぁぁっ!」
「鳴こうが喚こうが助けなんか来ないぜ!
観念して食われなっ!」
牛は狼に食べられてしまった。


「も~!
えっ!?生きてる?…夢?」
『どうじゃ、鹿になった気分は?
お主が思う程、羨ましいものじゃないだろ?
無い物ねだりも大概にするんじゃな』
天から声が降りてきた。
「も~鹿になりたいなんて言わない!
ごめんなさい!」
牛は鳴いて謝った。


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