第483章 才能
職業、コピーライター。
同業者には悪いが、はっきり言って、堂々と胸張って言える職業だとは俺は思っていない。
まぁ、某ライターみたいに有名人ともなれば話しは別だが、平凡なフリーライターでは報酬もたかが知れている。
「あぁ…才能ないのかな、俺…」
ポツリと呟く。
「新年早々、何、言ってんの?
本当に才能がなければ仕事なんて来ないわよ」
彼女がフォローしてくれた。
しかし、それなりに仕事の依頼はあるが、収入は安定してないし、いつ『0』になるかも分からない不安。
「…どんな仕事でもフリーでやってる人はみんな同じように不安抱えてるわよ」
確かに彼女の言う通りなのかも知れない。
カレンダーは始まったばかり、今からこんな事を考えていたら一年もたないな。
「今だから…かな…」
暇な時程、変な考えばかりが思い付く。
「暇なら、今度の仕事の事でも考えたら?」
年末に依頼を受けた店のキャッチコピー、納期に時間はあるからまだ考えてもいなかった。
店の名前は『ヤヌス』、ローマ神話に出てくる出入り口と扉の守護神の名を名称に使うからキャッチコピーを作ってくれと…。
ヤヌスとは前後に反対向きの2つの顔を持ち、物事の内と外を同時に見る事が出来る双面神…。
簡単に言えば、人の本音と建前が見えちまう厄介な能力の持ち主だ。
「…本音と建前の両方か?
あまり良い店名とは思えないが…」
いろいろ考えたが良い案が浮かばない。
「ねぇ、ヤヌスって土星の第6衛星でしょ?」
「え?土星?って、あの輪っかの土星か?」
彼女は星が好きでたまにプラネタリウムに連れていかれる。
意外なところから案が降ってきた。
『貴方の6番目に大切な場所』
彼女が笑い転げていた。
end