第450章 瞳の影
「…君の瞳に乾杯」
バブル全盛の頃、高級ホテルの展望レストランで煌めく夜景を見ながらシャンパンで乾杯した。
雰囲気に押し切られた気もしないではなかったけど、あの頃はこれが一番だった。
あれから30年数年…。
すっかりおばさんになって、もうあんなキラキラした時間は過ごせないと思っていた。
「…貴女の瞳に乾杯」
まさか今の私にこんな事を言ってくれる人がいるなんて…。
でも、それは私にと言うより私の財産にと言った方が正しいのは分かっている。
五年前、資産家だった夫が突然亡くなり莫大な遺産だけが残った。
人生を何度もやり直せるくらいの…。
じゃなきゃあ、こんなおばさんにそんな事を言う訳がない。
それでも、やっぱりときめいてしまう。
知り合ったのは去年…。
行き付けのバーで一人飲んでいた時、マスターから紹介されたのが彼だった。
「宜しかったら一緒に飲みませんか?」
私よりだいぶ若いのにしっかりしていて、小さいながらIT企業の社長でもあるそうだ。
「僕の生涯のパートナーになってもらえませんか?」
何度か会って、食事したり映画を見たり、まるでデートしてる様で楽しかった。
でも、私は知っている。
彼の会社が資金難で倒産寸前である事を…。
そして、私の他にも女がいる事も…。
end