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千分の一話噺

第448章 お月見


今夜は満月、十五夜だ。
妻が実家でお月見をしようと言い出した。


去年、妻の実家の近くに家を買った。
妻の両親も高齢だし、東京に嫌気が差していた事もあり、田舎暮らしをする事にした。
田舎と言っても、街からそんなに離れていないし、然程不便さは感じていない。
仕事は、リモートワークになり月一回出社すれば良いから思いきって引っ越したのだ。

妻が実家にいた頃は、毎年お月見をしていたらしい。
東京では月は見えても、お月見をする雰囲気ではない。
私も子供の頃はお月見をした事はあったが…。


「そうだな、月見団子はきな粉餅が良いな」
「きな粉餅を月見団子?何で?」
妻は不思議そうな顔をする。
「うちの親父はきな粉餅が好きでな…
何かあると、必ずきな粉餅が出るのがうちの流儀だったんだ」
「お義父さん、甘党だったの?」
「いや、きな粉餅以外は食べてるのを見た事はないな」
酒好きで、酔うと昔の事ばかり話して、同じ話を何度聞いたか…。
そんな親父も五年前に他界している。
「うちは普通にお饅頭だから、両方用意するわね」
「我が儘言って悪いな」
妻の両親は高齢とは言え、まだまだ元気で痴呆の症状もない。
私は親父が死んだ時もお袋の時も、仕事で海外にいた。
妻の両親の時はちゃんと寄り添っていたいと思った。

こっちに来ると決めた時、初めは同居も考えたが、自分達で出来るうちは自分達で生活するからと断られた。
後で「お互い気を使いながらの生活はさせたくない」と妻から聞かされた。
だったら近くで見守ろうと、実家から歩いても30分程度で来れる場所に家を買った。

「そろそろ行こうか」
「まだ早くない?」
「酒も飲むだろうから、散策しながらのんびり歩いて行こう」
妻には見慣れた田舎の景色だが、私はしばらく楽しめそうだ。

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