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千分の一話噺

第45章 夕暮れ時


図書委員の沙織は放課後、図書室にいた。
図書室は西向に窓があり、秋の夕日が差し込んでいる。

「もうそろそろ閉めないと…」
もうすぐ下校時間になるが、利用している生徒はもう居なかった。
窓の戸締まりを確認していると、廊下を走る足音と叫び声の様な声が図書室に向かっていた。
「うぉ~~~まだ開いてるかぁ!」
勢いよく扉が開くと一人の男子生徒が飛び込んできた。

「武志くん!?そんなに急いでどうしたの?」
沙織のクラスメート武志だった。
「いや…週末だから、これを返しに…」
武志は一冊の単行本を持っていた。
数日前に貸し出していた本だ。

「来週でも大丈夫なのに…」
「あのな…俺…、…またお勧めの本ないかな?」
武志はちょっと挙動不審だったが、沙織はそれが可笑しくて、くすくすと笑っていた。
「武志くんが、読書好きだとは思わなかったわ」
「勧めてくれた本が面白かったから…」
武志は頭を掻きながら答えた。

「ちょっと待ってて…」
そう言うと沙織は、本棚から一冊の単行本を取ってきた。
「これ面白いと思うよ」
沙織は飛び切りの笑顔で武志に渡した。
「おっ、おぅ…ありがとな
じゃあ、こっちは返すから…
じゃ、じゃあな!」
武志は本を交換すると、すぐに図書室から出ていった。

沙織は受け取った本を本棚に戻そうとした時、本に栞が挟んであるのに気付いた。
「あれ?武志くんの忘れ物?」
栞を抜くと何か書いてあった。
沙織はそれを読むと、眼鏡を外して潤む瞳で夕日を眺めた。



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