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千分の一話噺

第441章 怪奇 蟷螂の館


ちょっと昔の話し。


町外れに『蟷螂の家』と呼ばれる館があった。
紋章や館の装飾に蟷螂があしらわれているからだ。

その館には、年の頃なら三十路くらいの女性が一人で暮らしていた。
だが、類い稀な美貌を持ち妖艶な立ち居振る舞いで数々の男達を虜にし、訪れる者が絶えなかった。

資産家のA氏は、毎日の様に薔薇の花束を彼女に贈った。
「何でも買ってやる」と、そんなA氏の言葉を受け流し、彼女はその花束に重石を付け庭の池に沈め、水中花として楽しんだと言う。
しかし数ヶ月が経った頃、彼女が妊娠したと噂になった。
町の誰もがA氏の子供だと思っていたが、そのA氏は行方不明となっていた。

その後、女性の妊娠がデマであると分かると、今度は町の権力者F氏が言い寄った。
「町の事なら思いのままだぞ」と、しかし彼女はどこ吹く風とウィンクして魅せるだけだった。
F氏は彼女に更にのめり込む様になり、挙げ句の果て離婚され失脚していった。
それでも彼女の元に訪れると、彼女の蔑んだ眼差しと罵りに耐えきれず逃げ帰った。
しかし、その後F氏の行方は分からなかった。

彼ら以外にも彼女にのめり込んで行方知れずとなった男は数多いた。
これは何かあると踏んだ警察は捜査を始め、A氏が最後に目撃されたのがこの館に入る所だった。
警察が館の捜索に入ると、A氏は池の中で、F氏は地下室で、それぞれ見つかった。
他にも彼女にのめり込んで行方不明になった男達の遺体が館の中に転がっていた。

警察は館中を調べたが彼女の姿はなく、たくさん蟷螂がいるだけだったと言う。



ひぐらしが鳴き始めた。

「ま…、まあまあね……怪談としてはちょっと弱いかな?」
私はかき氷を食べながら感想を言った。
話していたのは、ネットで知り合ったちょっとミステリアスな感じがする女性。
二人だけでリモート女子会をしていた。
「そお?でも蟷螂って産卵の時、メスがオスを食べちゃうでしょ…

だから…

あなた、メスで良かったわね」
画面の彼女ではなく、後ろから声が聞こえた。

end
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