第433章 異世界アパート5
「あぁ、早く週末にならないかしら…」
現実世界は夏本番だけど、異世界はまだ過ごしやすい春真っ盛り。
あまりに季節感が違うのも不都合だから、向こうにいる時間を多くして、こっちの季節と合わせる事にした。
「え~と、今週はこれで大丈夫ね」
向こうに行ってる間、こっちの事を忘れないように詳細な日記を付けている。
「…で、向こうは何してたっけ?」
同時に異世界用の日記も付いている。
日記を書き終わった頃には日暮が鳴く夕方になっていた。
すぐに向こうの服に着替えて玄関を大きく開く。
「おはよう、ナタリー」
お隣さんのナタリーが庭の花木に水を撒いていた。
「おはよう、アヤコ
今日はカタリナが新しい料理作るって言ってたから、昼食がてら試食に行くわよ」
「どんな料理か楽しみね」
ナタリーの店は夕方から、それまでは双子の妹のカタリナが料理の下ごしらえをしてくれている。
「あれ?それって?」
店に向かうナタリーの手には庭の花をガラスの器に生けてあった。
「これ?店で水を入れて飾るのよ」
「えっ?水入れちゃうの?」
「アヤコの国では水中花にしないの?
グランロールスではこうして飾るのよ」
こっちの世界にも水中花があるんだ。
店に着くと中から良い匂いが…。
「お姉ちゃん、アヤコ、もうすぐ出来るわ
ちょっと待ってて…」
カタリナは忙しく料理していた。
「じゃあ私は掃除するから、アヤコはカタリナを手伝って…」
手伝いと言っても、料理はまだまだ見習い中だから食器を出して盛り付ける程度だけど…。
カタリナの料理は何でも美味しい。
今回の新しい料理は…。
「これって…」
「そう、アヤコが作った肉じゃがを私なりに作ってみたのよ」
でも、あれはコンビニの惣菜で私が作った訳じゃないんだけど、それは言えないわよね。
ナタリーも納得して、新しいメニューに加わった。
私としてはちょっと複雑な気持ちだけど…。
店のカウンターに置かれた水中花が明かりを受けて、私の心の様に揺らめいて見えた。
end