第428章 初盆
「おい、新入り
そろそろお盆だから準備しとけよ」
先輩からそう言われたが…。
「お盆って、ここでも盆踊りとかあるんすか?
俺は何を?」
お盆についてはあまり知識がなかった。
「最近の若いもんは何にも知らねぇんだな
俺達は迎え火を頼りに精霊馬で家に帰るんだよ」
「えっ!生き返れるんすか!?」
「バカか?生き返れる訳ねぇだろ
霊としてお盆の間、家にいるんだよ
送り火の時、精霊牛でここに戻って来るんだ」
先輩が説明してくれたが…。
「しょうろう馬?しょうろう牛?ってなんすか?」
「…呆れて怒る気にもならねぇな
お盆の時にキュウリや茄子に割り箸で足つけて馬や牛みたいにするだろ?あれがそうだ」
「あのキュウリや茄子はそう言う意味だったんすね」
先輩は溜め息吐いて、俺の両肩に手を置いて…。
「バカは死ななきゃ分からないって言うけど、バカは死んでもバカのままだな」
「そうっすか!?あざーすっ!」
「褒めてねぇよ!」
先輩に怒られた。
「お前は初盆なんだから浴衣でも来て行けよ」
「何で浴衣なんすか?」
俺は首を捻った。
「初めてのお盆の時は、家族に見られる事があるんだ
夢枕に立つって聞いたことあるだろ?
変な格好して行くんじゃねぇぞ」
「うっす、浴衣で行きます!」
って事で、浴衣を探してみたが俺の荷物にはなかった。
「参ったな…こんな所で浴衣なんて売ってんのかな?」
シャカシャカシャカシャカ…
「なんだ?この音は?」
俺が音のする方を向くと算盤を振っているじいさんがいた。
「うわっ!誰っ!?」
「ほほほっ、お主、浴衣が欲しいんじゃろぅ?」
じいさんは背負っていた風呂敷を広げた。
「何でそれをっ!?じいさん、エスパーか?」
「えすぱーとはなんじゃ?
それより、どうじゃこの浴衣は?
初盆のお主はこれくらいは着て行かんとなぁ」
じいさんは算盤を弾いて…。
「百万円じゃな」
「えぇぇぇぇぇっ!そんな金ないっす!」
「冗談じゃ、あの世に金なんかないわい
持ってけ泥棒!」
そう言ってじいさんは煙の様に消えた。
なんか、あの世って面白れぇや。
end