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千分の一話噺

第422章 独白


ある夏の日、止むに止まれぬ事情から人を殺めた。
…後悔はない。

しかし、法治国家で人を殺めれば罪になる。

日本は法治国家である。
私は人を殺めた罪、殺人罪を問われることになる。
どんな理由があるにしろ殺人は重罪だ。
だが、言い訳はもちろん弁護も必要ない。
私は誇りを持って自分の正義を貫いた結果なのだから…。


何故、殺人は罪なのか?

そう問う人がいた。
誰しもそれは法に叛いていると言った。
では、何故、法は殺人を罪にしたのか?
動物の命は奪っているのに、人の命を奪う事を禁じているのは何故か?
殺人は罪だと言っていながら死刑が許されるのは何故か?

世界は矛盾で成り立っている。

そんな言葉を思い出す。
個々の正義をぶつけても何も解決しない。
矛盾と言う妥協点を積み重ねた結果が法律なのだ。

大概の人は生まれ落ちた時には法律の中にいる。
まるで黄昏時の中にいる様なものだ。
その時の指導者、世論、風潮で光とも闇ともとれる曖昧な世界。
翻弄されるのは決まって力なき者達。
私もそんな力なき者の一人…。

日が沈む。
光と闇が交ざり合う時。
私は、自分の正義に従い闇に向かう。
誰にも見付けられる事のない真の闇に…。


end
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