第409章 心友
雨に紫陽花…。
これほど似合うシチュエーションが他にあるだろうか。
『紫陽花や
五月雨纏って
麗しく…』
朝から続く五月雨に窓の外に咲く紫陽花を見ながら頬杖を突く。
…スマホが鳴る。
「うん…あぁ…分かった」
着替えて待ち合わせのコーヒーショップに急いだ。
コーヒーショップにはもう彼女が来ていた。
「どうしたんだ?こんな時間に?」
彼女は夜の蝶、午前中は大概寝ているはずなのに…。
コーヒー片手に頬杖を突く彼女。
「…ねえ、今日は虹見えるかな?」
「はぁ?…虹ってあの空に掛かる虹か?」
「…他に虹ってあるの?」
彼女は妖しく笑う。
彼女とは大学時代に知り合い、どこか似た者同士の様に感じている。
付き合ってた訳ではない。
彼女の友達も恋人もほとんど知らない。
しかし、何かあるとどちらともなく声を掛け、顔を合わせて何でもない一時を過ごす。
大学を卒業して、しばらくは会う事もなかった。
彼女が夜の蝶になったのは最近知った事だ。
「そうだな…午後には雨が上がると言ってたから、もしかしたら見れるかもな」
「…午後かぁ、起きていられるかな?」
「虹が出たら電話してやろうか?」
「…相変わらず優しいね
そういう優しさは彼女だけにしといた方が身の為よ」
そう言う表情は夜の蝶と言うより、雨に濡れた紫陽花の様に見えた。
end