第402章 思い出
町の外れ、山の麓に朽ち果てた家がある。
今では幽霊屋敷と云われて近寄る人もいない。
しかし、私は知っている。
あの家には、大切な、大切な想いが詰まった家だと言うことを…。
あれはまだ私が9歳の頃…。
「あの家には近付かないのよ!」
よく母親に注意されたが、私の遊び場だったし仲良しの友達がいる。
「キイくん、どこ?」
「ここだよ」
いつもここで遊んでいる喜一郎くん、私はキイくんって呼んでた。
私が友達と山へ探検に来た時、一人はぐれてしまって泣いていた時に町まで送ってくれた優しい子。
「今日は何して遊ぶ?」
「麻衣ちゃんに良いもの見せて上げる
着いて来て」
キイくんは山の方へ入って行った。
「待ってよ、キイくん!」
私はキイくんの後を慌てて追いかけた。
どれくらい登っただろうか?
「…キイくん…まだ?」
「もう少しだよ」
キイくんは息も切らさずに登っていく。
しばらく登ると、ちょっと開けた場所に出た。
「麻衣ちゃん、見て!
取って置きの場所だよ!」
振り返って見ると…。
「す、凄い!綺麗…
こんな所があったんだ!」
そこからは、私達が住んでいる町だけじゃなく遠くに海まで見渡せた。
「あれが僕んちだよ」
キイくんは山の麓を指差した。
そこには立派な鯉のぼりがカーネーションの池で泳いでいるように見えた。
「凄い、あれみんなカーネーションの花なの?
…あれ?あそこって…」
そこはあの朽ち果てた家、でも今見てるのは立派な家だった。
「これは何十年も前の景色だよ
僕の思い出…」
「どういう事?」
「本当は…麻衣ちゃんのひいおばあちゃん、麻季ちゃんに見せて上げるつもりだったんだ
でも、見せる前に僕は病気で死んじゃったから…
でも麻衣ちゃんに会えて、ここを見せれたから…
ありがとう…麻衣ちゃん…」
キイくんは天に昇る様に消えていった。
あれから20年が経った。
私は春になると家族であの場所に行く。
鯉のぼりもカーネーションもないけど、海まで見渡せる景色と心地よい風が私達を歓迎してくれるから…。
end