• テキストサイズ

千分の一話噺

第396章 隣がトトロ


僕は春の異動で田舎の支店に転勤になった。
所謂、左遷ではなく僕自身が志願したのだ。
「何であんな田舎の支店に?」
上司から聞かれ答えに困った。
「えーと、小さな支店の方がいろいろ自分で動かないといけないので、遣り甲斐があるかなと思いまして…」
取って付けた様な理由を言った。

本当は田舎暮らしの方が好きだからなのだ。
子供の頃、夏休みに田舎のおばあちゃん家へ遊びに行くのが待ち遠しかった。
両親は田舎は嫌だと言うが、僕は都会の方が嫌だった。

だが、それを言っても誰も理解してくれない。
それは僕が頭取の親戚でブランド服に身を包み、派手な外車を乗り回しているから…。
それも好きでやっている訳じゃない。
回りの目を気にする親から無理矢理押し付けられた窮屈な姿なのだ。

「これで自由に暮らせるぞ!」
この小さなアパート(それでも町では一番高いけど…)の一室が、誰にも邪魔されない僕の城の様なものだ。
「おっと、お隣さんに挨拶しないと…」
角部屋なので隣は一ヶ所、都会なら最近は挨拶しないのが普通になっているが、田舎(と言ったら失礼かな?)では挨拶は大事だ。

『戸々路』

隣の表札に書かれている名前に目が留まった。
仕事柄いろいろな名前を見てきたが、初めて見る名前だ。
「何て読むんだ?…ととみち?…ととろ?
ととろ!?…まさかね?」
僕はドアベルを鳴らした。


end
/ 1580ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp