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千分の一話噺

第40章 俺とあいつ②・茜雲


フッと顔を上げると茜雲が広がっていた。

「はい、これ」
「ん?トンボか?」
目の前に差し出されたのは、ビーズで作られた赤トンボのマスコット。
「手作りなんだぞ
大事にしてよ」
色白の華奢な手の平に赤いビーズで作られたトンボがちょこんと乗っている。

今時ビーズって…でも、これで慰めてるつもりなんだよな。
ちょっと頬を赤く染めてそっぽを向いているこいつが愛おしく思えた。
いつまでも落ち込んでる訳にはいかないな。

「ありがとよ…
俺がトンボ好きなの覚えてたんだ」
「小さい頃、一緒にトンボ追いかけたじゃん」

トンボのマスコットを空に掲げてみた。
そういや、あの頃はこの辺りも赤トンボがいっぱい飛んでたな。

森は刈られ、空地にはマンションが建ち、川辺もコンクリートで固められた。
開発という名の自然破壊、人は自然より利便性を重要視する。
いつまでも変わらないのは夕焼けの茜雲くらいだ。

「なぁ、あの茜雲みたいにお前はそのままでいてくれよ」
「何それ?」
小首を傾げてから笑いだした。
俺もつられて笑いだした。

あの頃見た赤トンボの様なビーズのマスコットが夕焼け空に飛んでいきそうだ。


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