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千分の一話噺

第395章 謎の一軒家


とある町の近く、山の中腹にポツンとある古い一軒家。
私は何故か興味が湧き、取材する事にした。

テレビでやってる様なとんでもない山中にある訳ではない。
国道から見える所に建っている。
勿論、町の人はこの家の事を知っている。
…が、その家に誰が住んでいるのかは知らなかった。
表札には『小林』と、ありふれた名前が書かれているのだが…。

「いつも庭が綺麗に手入れされてるわよ」
「ゴミの日にはちゃんと分別して出てるよ」
「夜には電気が点いてるし、誰かが住んでいるのは間違いないはず…」
「雪が降るとちゃんと雪かきしてるよ」
「五月には必ず鯉のぼりが上がるだけど、いつの間にか上がって、いつの間にか仕舞ってるんだよな」

これだけ情報があるのに、誰も住人の姿を見ていない。
なんとも不思議な家である。
しかも、何故か町の人達はこの家の住人の事に無関心だった。
私は更に取材を続けた。

「小林さん?知らないな」
「そういえば、もう何年も見掛けないねぇ」
「仕事?役所勤めじゃなかったかな?」
「作家だろ?」
「国際線のパイロットって聞いたわ」

小林さんの正体が見えない。
聞けば聞くほど分からなくなる。
実際に家にも行ってみたが、チャイムを鳴らしても誰も出て来ないし、そもそも人の気配と言うか生活感がない。

本当に誰か住んでるのかしら?

ただ、鯉のぼりだけが風になびいていた。


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