第383章 日溜まり
桜並木を二人で歩く。
貴女と並んで歩くのは何年ぶりだろう。
「…あれからどうしてる?」
最後にこうして歩いたのは、もう覚えていないくらい遠い。
「…」
彼女は特に答えなかった。
「…今日はゆっくり出来るんだろ?」
「…うん」
小さく返事をすると手を繋いでくれた。
「あの時も、こうして手を繋いで桜を見ながら歩いたっけな…」
懐かしさよりも、込み上げる想いの方が強かった。
木洩れ日の桜並木。
穏やかな陽射しと心地好いそよ風の中、繋いだ手の温もりにただただ安心感を抱く。
握る手に少し力が入った。
「…相変わらずの心配性?
可笑しい…ふふっ…」
俺の顔を見上げてフワッと笑う。
「笑う事ないだろ?
どれだけこの時を待ったと思ってるんだ?
情けないけど、あの時から脱け殻みたいだったんだぞ」
冗談っぽく言ってはみたが、彼女は申し訳なさそうな顔をした。
「…ご」「謝るなよ」
彼女の言葉を遮った。
「別に怒ってる訳でも…う~ん…
ちょっとは怒ってるけど、責めてる訳じゃないから…」
「…やっぱり怒るわよね」
「怒るさ、自分にね…
俺は何もしてやれなかったんだから…」
当時は不甲斐ない自分に腹が立っていた。
「ちゃんと感謝してたわよ」
彼女の握る手にギュッと力がこもった。
「…ちょっと疲れた
そこのベンチで休もう」
もう、若かったあの時の様に歩き続ける事は出来ない。
「…そろそろ逝こうか」
俺は彼女と手を繋いだまま天に登った。
日溜まりのベンチに座ったまま…。
end