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千分の一話噺

第361章 依頼


「…おはよう、紗耶香ちゃん」
ボサボサの髪の毛を掻き上げ、眠そうな目で現れた中年男、東郷雅宗。
「所長…何時だと思ってるんですか?」
東郷は欠伸を噛み殺し苦笑いしている。
「今日は大晦日ですよ!
忘れたんですか!?」
紗耶香と呼ばれた女性は一枚の書類を東郷の目の前に突き付けた。
「…なんだっけ?」
東郷は首を傾げる。
「…これだ
よくそれで探偵が勤まりますね!?」
紗耶香は腰に手を当て語気を強めた。
「ほら、そこは紗耶香ちゃんがいるから…」
「…紫織さんが愛想尽かすのも分かるわ」
紫織とは東郷の別れた元妻である。
「彼女の事はいいだろっ…
…今夜の依頼だろ?
まだ時間あるし…」
「本当に大丈夫ですか?
高い報酬なんだから、ちゃんとやって下さいね」
紗耶香は心配そうに顔を曇らせる。
「もっと気楽に行かないと老けるぜ」
茶化す東郷に紗耶香は頬を膨らませた。



除夜の鐘が鳴り始めた…。



とあるカウントダウンイベントでの警護…。
依頼人はネットで脅迫やら殺害予告やらが絶えないらしい。

「ふぁ~眠い…」
「所長!」
紗耶香の肘鉄が脇腹に突き刺さる。
「うっ!分かってるよ」
二人は舞台の袖で待機していた。
そこに依頼人が壇上にあがろうとしていた。

「!やばいっ!」
突然、東郷は走り出した。
「ぶっ殺してやる!」
観客の中から男が包丁を振りかざし、依頼人に向かっていた。

間一髪、東郷が男の包丁を蹴り飛ばした。
すぐさま警備員が数人で男を取り押さえ事なきを得た。
男は依頼人の会社の元社員だったそうだ。
「クビにされた恨みか…」
東郷は寂しそうに呟いた。

「さすが所長!
これで事務所も安泰です」
紗耶香だけは大喜びだった。


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