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千分の一話噺

第356章 師匠


昨日、メールが着た。
『今まで世話になったな
指はどうにか動かせるが、もう声は出ない
どうやらこれが最後のメールになる』

俺は吹雪の中、車を走らせた。
「くそっ!これじゃ間に合わない…」
もう目の前ですら真っ白で見えない状況、車を走らすのさえ危険だ。

『お前には全てを教えた
どこに出しても恥ずかしくない弟子だ』

俺は車を乗り捨て、外に飛び出した。
「ここからなら走ってでも…」
急がなければ、師匠が…。

『後は頼むぞ
我々の技を途絶えさせるな』

吹雪は更に酷くなり、雪に足が取られ上手く走れない。
「仕方ない…」
俺は狐の姿に戻って、雪の上を駆け出した。

師匠の家まで後少しなはずなのに、ホワイトアウトで身動きすら出来ない。

「ここまで来たのか…」
俺の目の前にぼんやりと光る狐火が現れた。
「師匠っ!」
「我ら化け狐の技、昔の様に広めてくれ…
お前なら…出来…」
狐火はその灯を消した。

「…師匠」

俺は人間に化けて、車に戻った。
「俺も師匠の様に弟子が出来るんだろうか?」

帰り道、道路の脇に動物が横たわっていた。
「車に撥ねられたか…」
よく見るとその亡きがらの傍に動く小さな影。
車を脇に止め、近寄ってみると狐だった。
「…お前、俺の弟子になるか?」
親狐の脇で震えていた子狐を抱き抱えた。

師匠が俺にしてくれた様に…。



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