第352章 名探偵の負け惜しみ
例の如く、ネズミ野郎から届いた予告状によりハロウィンの夜は教会が大賑わいとなった。
この街に古くからある教会は、江戸時代の隠れキリシタンの教会だったそうだ。
「えっ?ここって江戸から、そう遠くないよな
よく隠れキリシタンなんて…」
答えはここの殿様も隠れキリシタンだったらしい。
「今は建て替えた教会ですが、昔は民家に偽装してました」
そんな異色の教会にどんなお宝があるのか?
「はははっ!
名探偵、今回は君の負けです!」
高笑いのネズミ野郎、しかし俺には何が負けなのか分からなかった。
「貴様!何を盗んだ?」
「…これですよ」
ネズミは懐から一枚の古銭を出した。
「そんな物が…」
「そうですね、私以外にはただの古い硬貨ですよ…
では、これにて失礼します」
ネズミ野郎は仮装した人混みに紛れ逃げて行った。
「あの古銭に何があるって言うんだ?」
後で分かった事だが、教会に保管してある江戸時代の文献にこんな事が記してあった。
『雪待月に入ったばかりの霧雨城下町に鼠小僧が現れ、金子(きんす)を撒き散らした』
あの古銭はネズミ野郎にとって先祖の形見みたいな物なのかも知れないな。
「まぁ、今回は奴の先祖に免じて見逃してやるか…」
end