第351章 温泉旅館
「おい、親父!
どういう事だ!?」
「どうもこうも、家族旅行だろ?」
「ふざけんな!
これのどこが旅行だ!?」
親父がいきなり「家族旅行しよう」なんて言い出した時から嫌な予感はあった。
「家族みんなで家を出たんだから家族旅行としか言わないだろ!」
親父はどうだと言わんばかりに胸を張った。
「確かにみんなで家を出た…
が、そのまま裏山を登っただけだろ!」
「山登りは旅行の醍醐味だ!」
訳の分からん事を言い出す始末…。
「おふくろ…、何とか言ってやれよ」
おふくろに文句を言ってもらうつもりだったが…。
「そうねぇ…、昔、旅行で山登りもしたわね」
「おい…」
思わずツッコミを入れてしまった。
「…美香も何か言えよ」
妹を見るとスマホに夢中で話しを聞いてない。
「はぁ…」
これ以上ないくらいの溜め息が出た。
「…で、これからどうすんだ?」
俺は完全に心が折れた。
「もちろん、旅行と言えば温泉旅館だ!」
「この裏山に温泉旅館なんかあるかぁ!」
俺が完全否定したが…。
「あら?こんな所に温泉旅館があるわ」
おふくろのほんわかした声が響いた。
「ぬわにぃ~!」
「俺が昨日作っておいた」
親父が力こぶを見せる。
見ると掘っ建て小屋に温泉旅館の看板が打ち付けてあった。
end