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千分の一話噺

第35章 夏の思い出 後編


時は流れ、プールは無くなり、そこにはマンションが建った。
健治が転んだ田舎道は舗装され車もよく通る。

その健治は地元の企業に就職し、今年の選挙で市議会議員になったそうだ。
俺は都会で一人暮らし、実家には盆暮れの休みくらいしか帰らない。


「今年は帰って来るのか?」
健治からの電話。
「あぁ、一応盆休みがあるからな
議員様は休めるのか?」
俺は皮肉混じりで答えた。
「議員の休みなんて、あってないようなもんだよ
お盆中に議会はないが、盆踊りや花火大会に引っ張り出される
有権者の好感度は上げておかないとな」
電話越しだが健治の苦笑いが見える。


お盆休みになり実家に帰ると夕方に健治がやってきた。
「なんだ?議員様は自転車でお出ましか?」
「嫌味を言うなよ」
健治は苦笑いしている。

健治と会うのは二年ぶりか…。
お互いの都合がなかなか合わなかった。

「そうだ!自転車で小川まで競走するか!?アイス賭けて!」
俺は昔を思い出して健治を誘った。
「議員が賭けする訳無いだろ
それにあの小川は、もう昔の小川じゃない…
水害対策のコンクリートで覆われて蛍もいなくなったよ」
健治は寂しそうに笑った。



「篤志!蛍、見に行こうぜ!」
「じゃあ小川まで競走だ!」
無邪気だったあの頃の笑顔は蛍と共に思い出の中か…。


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